アートメイク後のMRI検査は安全か?
MRI検査でアートメイクは注意すべきとされています。 今回はアートメイク研究の第一人者の冨田祥一先生に アートメイク後のMRI検査は安全性について伺いました。
MRI検査で人体に影響しうる3つの作用
MRIは磁場を用いて体の内部の状態を撮影する方法です。 放射腺を用いないため、侵襲の少ない方法といえます。 中でもMRI検査は人体に影響しうる以下3つの作用があります。 1. 静磁場 2. 傾斜磁場 3. RFパルス ひとつひとつ解説していきます。
1.静磁場
静磁場は磁石によってモノを引き寄せる力があります。 過去にMRI検査室に誤って酸素ボンベや点滴棒などを 持ち込んでしまった事故がありました。 アートメイクに用いられる色素には 微量ではありますが金蔵が含まれます。 中でも黒い酸化鉄は磁性があり、磁石に惹きつけられます。 幼いころ砂場で磁石を用いて砂鉄を集めたこと 思い出していただけるとイメージしやすいと思います。 磁石に引き寄せられる力はそのものの種類と大きさに比例しています。 すなわち同じ酸化鉄でも微量であれば、引き寄せられる力も軽微であると言えます。 0.01mgの単位まで計測できる電子天秤を用いて 一般的なアートメイク(眉、アイライン、リップ、乳輪部)へ 施術した際に皮膚へ入る色素の重さは米ひと粒に満たないことが 報告されています。(2014年日本形成外科基礎学会) すなわち、アートメイク部はMRI検査時に 静磁場から受ける影響は非常に小さいと言えます。
2.傾斜磁場
MRI検査では磁場を規則的に傾けることによって 体内からの信号を引き出しています。 磁場を傾けることを傾斜磁場といいます。 MRI検査時に、グワングワンとうるさいのはそのためです。 音の度に磁場の傾きが変化しています。 これは耳栓やヘッドフォンなどで対策します。 また非常に軽微ですが、ピリピリとした神経刺激を来す可能性があります。 すなわち、傾斜磁場による影響は アートメイク特有のものではありません。 さらに臨床で用いられているMRI装置では 大きな影響を及ぼすことがないと言えます。
3. RFパルス
アートメイクを受けた方がMRI検査の際に最も危惧されるのがRFパルスによる影響です。 RFパルスとは静磁場に垂直な方向に照射する電磁波のこと。 RFパルスが引き金となり電磁誘導が起こり、 その結果生じた誘導電流によって発熱、火傷を引き起こすことがあると報告されています。 その際にコイルとなるようなループ構造が存在すると発熱しやすくなると言われています。
MRI検査で注意すべき形状
これはアートメイクの形状にも言えることで、 冨田先生は円形(中を塗りつぶした形状)と輪(ドーナツ状)では わずかではありますが輪の形状の方がMRI検査時に発熱量が多いことが実験によって報告してきました。 (冨田祥一ら.乳輪乳頭部へのアートメイクのMRI検査における安全性(第2報) マウス皮膚を用いた形状の検討. Oncoplastic Breast Surgery. 2016; 1巻1号: 20-24.) しかしこの報告の中でも、火傷をきたすほどの発熱は認められませんでした。 繰り返しMRI検査を行うことでわずかな温度上昇を認めた程度です。
MRI検査で注意すべき成分
アートメイクの色素には多くの金属成分が含まれます。 これは安全性を考慮して配合されている一方で、MRI検査時に火傷のリスクになるのではとも言われています。 そこで金属成分を主成分とする色素に対して 臨床では用いられていない動物実験用の強力なMRI装置(9.4テスラ)を用いた実験を行なっています。 25回の連続撮影を行なっても熱傷を来すような発熱が認められなかったことを報告しています。 (Tomita S, et al. Multifaceted evaluation of Ultra-high-field 9.4-T magnetic resonance imaging after inorganic tattoos: An Animal Study. JMA Journal. 2019; 2(2): 155-163.) この研究と同様に、酸化鉄などの金属成分はMRI検査時の火傷の原因ではないとする医学論文も散見されています。 これはMRI検査時に両手で輪っかを作ったことによって火傷を起こしたという報告があることからも、 アートメイクの色素に含まれる金属成分はごく微量のため これが直接MRI検査時の火傷の原因とはならないのではないかと考えています。
MRI検査で火傷を起こすことはあるの?
非常に稀なケースですが、MRI検査時にアートメイク部に火傷を来した報告があるのも事実です。 (冨田祥一ら.乳輪乳頭部へのアートメイクのMRI検査における安全性(第1報)retrospectiveな検討. 形成外科. 2015. 58巻5号. 549−554.) これまで医学論文として報告され確認されたものは6件。 いずれもアイラインへアートメイクが行われています。 このうち検査室に入った時点で痛みを感じて検査を中止した物が2例、 4例は腫れや赤みが出現しましたが、特別な治療をすることなく治癒しています。 MRI検査時にアートメイク部に火傷を来した報告は少なく、 様々な条件が重なった時に生じたと考えられます。 その条件のひとつとして共鳴加熱やアンテナ効果と呼ばれる MRI検査時の発熱を増強するものがありますが、 一般的なアートメイクはこの条件に合致しません。 実際化粧品にも酸化鉄などの金属成分が含まれることから 必ずしもアートメイクがMRI検査時の 重篤なリスク因子とは言えないと思います。 アートメイクの後にMRI検査を受ける際は主治医、放射線技師の方々に相談していただき 何か検査中に異変を感じた際は検査を中止するなどの準備をした上で検査を受けて下さい。
まとめ
アートメイクの後にMRI検査を受けると、わずかながら火傷のリスクがあります。 しかしながらアートメイクはMRI検査を禁止するものではなく、 主治医、放射線技師の方々に相談・対策の上、 十分安全にMRI検査は可能であると考えられます。 この度は冨田祥一先生にお話を伺いました。 今後も様々な研究・調査を通じて医療として 安全なアートメイクを目指して行きたいと思います。 ===================================================== 冨田祥一先生 がん・感染症センター 都立駒込病院形成再建外科 医長 東京慈恵会医科大学形成外科学講座 講師 乳房再建を専門とする形成外科専門医。 アートメイクに関する多数の学会発表・論文執筆を行う。 ===================================================== アートメイクに関する代表論文 1. 乳輪乳頭部へのアートメイクのMRI検査における安全性(第1報) retrospectiveな検討. 形成外科. 2015. 58巻5号. 549−554. 2. 乳輪乳頭部へのアートメイクのMRI検査における安全性(第2報) マウス皮膚を用いた形状の検討.Oncoplastic Breast Surgery. 2016; 1巻1号: 20-24. 3. Color change after paramedical pigmentation of the nipple-areola complex. Aesthetic Plastic Surgery. 2018; 42(3): 656-661. 4. Multifaceted evaluation of Ultra-high-field 9.4-T magnetic resonance imaging after inorganic tattoos: An Animal Study. JMA Journal. 2019; 2(2): 155-163. 5. A Survey on the safety of and patient satisfaction after nipple- areola tattooing. Aesthetic Plastic Surgery. 2020; Online a head of print. 6.Complications with permanent makeup procedures on eyebrow and eyeline. Medicine. 2021; 100(18): pe25755. ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー PMUアピアランスケア渋谷(渋谷の森クリニック) 東京都渋谷区神宮前6-18-1クレインズパーク4F 10:00~19:00 休診日なし ✉pmu.shibuya@gmail.com